種馬ジャーナル

ストリートスポーツやアングラカルチャーを中心に、体験・レポートするブログ。話がまとめられない子なので、更新頻度が悲惨

俺にKOHH "Mitsuoka"のヤバさについて語らせてくれ

宇多田ヒカルWEBライブ「30代はそこそこ」に客演し、今週末に地元凱旋ライブ「LIVE IN OJI」を控えたKOHHの新曲が話題を呼んでいる。

 

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スマホジャックMVということで、Lyrical School "RUN AND RUN"との類似性も一部では議論になっているが、それよりも早くスマホジャックMV "Fuck Swag REMIX"をKOHHがリリースしていることもあり、これを議論するのは正直ナンセンスだと思う。(確かに予算やそれに伴う作り込みの程度の差はあるが)

逆にKOHHサイドからリリスク(とそのバックに控える製作陣)への真っ当なアンサーだと見るのが良いだろう。

 

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今回僕が着目したのは、「何故この"Mitsuoka"という曲でこのMVが作られたのか」ということだ。

  

先日、KOHHのオフィシャルより、2017年に新作のミックスCD "YELLOW T△PE 4"がリリースされることが発表された。

 

 

KOHHは過去にも新アルバム発表前には、リードトラックのMVやシングルをリリースし続けてきた。

直近で見ると

・DIRT…"LIVING LEGEND"、"If Die Tonight"

・DIRT2…"Die Young"、"Business and Art"

というラインナップ。 

 

「If Die Tonight」はSALUというこれまで目立った絡みも見られなかった豪華客演ということもあるが、他の3曲もどれを見てもエッジの効いた、現在ライブでも最初やラストで歌われる言わばキラーソングとして存在感を放っている曲だ。

 

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では、"Mitsuoka"もそのようなラインに入るのかと言われると、僕はそうじゃないと思う。

 

何故なら、上記、特に"LIVING LEGEND"、"Die Young"、"Business and Art"の3曲に関しては、これまで日本のヒップホップで無かったような際立ったフローが目立つ曲であり、同じような曲はアルバムにも収録されていない。その一方で、"Mitsuoka"に関しては実は同様のフローの曲を幾つか既にリリースしているということがあるからだ。

 

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KOHHやプロデューサー陣にとって"Mitsuoka"は特別な曲なのか。

恐らくそこには、リリックから読み取れる「KOHHは恐らく光岡自動車の車を購入した」というトピック以外存在しないと思う。

 

では、この"Mitsuoka"は何の役割を持って、リリースされたのか。

その答えは、僕はここにあると思っている。

 

 

物凄い勢いで、上記のようなツイートが増えている。

ここで起こっていることは、「若い女の子」が、「KOHHの曲以上にそのビジュアルにアイドル性を感じ」、「自発的に拡散している」という事象だ。

まあみんな感じていることだと思う。

 

が、ここにこれまでとの大きな変化がある。

何が変わったかというと、「アプローチする層」が完全に違うのだ。

 

これまでは、アルバムリリースのタイミングでアプローチし、刈り取りを行っていた対象は、いわゆる「ヘッズ層」だった。

コアなヒップホップファンの肥えた耳を卓越した音楽性と世界観で魅了し、「購買」というアクションに接続していたと言えるだろう。

 

一方、今回の"Mitsuoka"では、宇多田ヒカルとの客演などを通じて新しく入ってきた「ライトなファン層」に対し、「ありのままのKOHH」、そして「ビジュアル」という部分でアプローチを図っている。新規ユーザーのランクアップのためのMVとして機能していると僕は考えている。

この先にあるアクションは、「生のKOHHを見たい」という要望に対する「ライブ誘引」だろう。事実、今週末にLIVE IN OJIを控え(チケットは完売だが)、年末12/28には、渋谷でのライブゲストも待ち構えている。

 

これまでのファン層とは全く違う層(熱しやすく冷めやすいタイプ)に対する、リアル接点の獲得、そして継続的なファン化。これが"Mitsuoka"に託された機能であり、使命なのではないだろうか。

 

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とかくKOHH、そしてプロデューサーである318は仕掛け方がめちゃくちゃ上手い。

言うまでもなく、音楽ビジネスの新たな形を示し続けるその活動には完全に脱帽です。

 

わーわーと長ったらしく書きましたが、僕もLIVE IN OJI参戦するので楽しんできます。

気が向いたらレポートでもまた書きます!

"UMB×BRT"に見る『ラップブーム』以後の世界

 
先日、MCバトル界隈でちょっとした騒ぎが起こりました。
 
 

 

 
それは、ここ2年ほど色々とあったものの、未だ根強い人気を誇り、日本最大級とも言える規模で予選大会が開催される老舗MCバトル「UMB」本戦に、なんと別大会である「ビジネスマンラップトーナメント」(通称BRT)から代表選手が送り込まれるというものでした。
 
 
UMBでは、過去にこれまた外部のMCバトル「THE 罵倒」から優勝者が送り込まれたこともありましたが(2013年  輪入道)、新興の大会、それもある種の ”亜種” とも言える「ビジネスマンラップ」という領域から代表が出るということで、賛否両論が飛び交いました。
 
 
結果としてこの大会を制したのは、まさに「サラリーマンラッパー代表」とも言えるMC “BOZ”でした。
大会趣旨・スキル、どこをとっても誰もが納得の結果なんじゃないでしょうか。
 
 
終わってみれば、ヘッズたちにとっては「結果的に良かったね」という話に落ち着くのかもしれません。
 
ただ、この騒動について、個人的には、現在よく言われる "ラップブーム” の「その後の世界」を暗示しているように見えてなりませんでした。
そして、この1件に対する種々の反応が、「ラップブームの限界」を指し示すものになるかもしれないということを感じています。
 
 
僕は10年くらいヘッズを続けていて、現在はマーケティングブランディングにまつわるコンサルタントの仕事をしています。
大した戦績も残してないですが、バトルMCとしてもENTER、戦極、罵倒、そしてビジネスマンラップトーナメントと色々出場してきました。
 
そんな僕だからこそ感じる、現在のラップシーン(=MCバトルシーン)の状況と、この先について、ちょっとしたマーケティング理論を用いながら考えてみようと思います。
 
 
 
イノベーター理論
 
考察に用いるのは「イノベーター理論」です。
ご存知の方もいらっしゃると思うので、どういうものなのかサクッと説明しようと思います。
 

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イノベーター理論は、1962年にによって提唱された、新製品や新サービスの市場浸透に関する理論のこと。
顧客の新製品や新サービスの購入態度をもとに、5つのタイプに分類される。
 
1.イノベーター(Innovators:革新者)
冒険的で新商品が出ると進んで採用する人々の層。
市場全体の2.5%を構成する。
 
2.アーリーアダプター(Early Adopters:初期採用者)
社会と価値観を共有しているものの、流行には敏感で、自ら情報収集を行い判断する人々の層。市場全体の13.5%を構成する。
他の消費層への影響力が大きく、オピニオンリーダーとも呼ばれ、商品の普及の大きな鍵を握るとされている。
 
3.アーリーマジョリティ(Early Majority:前期追随者)
新しい様式の採用には比較的慎重な人々の層。慎重派ではあるものの、全体の平均より早くに新しいものを取り入れる。市場全体の34.0%を構成する。
アーリーアダプターからの影響を強く受け、新製品や新サービスが市場へ浸透する為の媒介層であることから、ブリッジピープルとも呼ばれる。

4.レイトマジョリティ(Late Majority:後期追随者)
新しい様式の採用には懐疑的な人々の層。周囲の大多数が使用しているという確証が得られてから同じ選択をする。市場全体の34.0%を構成する。

5.ラガード(Laggards:遅滞者)
最も保守的な人々の層。流行や世の中の動きに関心が薄く、イノベーションが伝統化するまで採用しない。

 

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日本のMCバトルの歴史において、「イノベーター」にあたる層を取り込んだのが、2000年代初頭から開催されていた「B-BOY PARK」、そして「UMB」でした。この時代は日本におけるMCバトルの歴史が始まったばかりだということもさることながら、現場あるいはDVDという数少ないルートでしかそれを見ることが出来なかったという情報接触の観点もその要因と考えることが出来ます。
2001年から2009年あたりまでこの時代が続きます。
 
 
そんな「ニッチもニッチ」(MCバトル的には「アングラ」という言い方をした方がいいかもしれませんが)なMCバトルの市場を拡大したのがそう、おなじみ “YOUTUBE”です。これにより、時間場所など限らず日本全国津々浦々のヘッズ達がMCバトルに触れることが出来るようになりました。
 
 

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そのイベントの代名詞が、MC正社員氏を代表とする「戦極MCバトル」です。 
戦極の動画がYOUTUBEに上がり、それまでヒップホップ・ラップに興味があったものの、MCバトルについて明るくなかったアーリーアダプター層を引き込むことに成功したと考えられます。
この時代が大体2010〜2012年ほどの間。違法アップロードではありますが、R-指定や晋平太と言ったラッパーのいわゆる「MC BATTLE COLLECTION」がたくさん増えたのもこの時期です。
 
が、それでもMCバトルは一定以上の広がりを見せることはありませんでした。
いわゆる「ヘッズ向け」のエンターテイメントとして収まっていたわけであります。
 
この事象を説明するに足るのが、以下に引用する「キャズム理論」です。
 
 
 

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革新的商品やサービスが市場でシェアを拡大する過程で,容易に超えがたい「溝」があるとする理論。顧客層全体を受容時期の早い順から五つの層に分け,このうち 13.5パーセントのアーリー-アダプター(初期採用者)と 34パーセントのアーリー-マジョリティー(前期追随者)の間に,普及を阻む「溝」があると考える。

 

戦極や罵倒と言ったMCバトルは、確かにMCバトルの市場を広げました。
ただ、キャズムを超えるにはその当時至らなかった。まだまだ「知る人ぞ知る」というものだったわけです。
 
このキャズムを超えたのは何か。
お判りですよね。「高校生ラップ選手権」そして「フリースタイルダンジョン」です。
時間軸で言うと2013〜2016年にかけての出来事です。
 

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なぜこの2つの企画を通じて、MCバトルはキャズムを超えることが出来たのか。コンテンツの面白さもさることながら、僕は以下の要因が考えられると思っています。
 
1.「BAZOOKA」というヒップホップとは無関係の番組が公式・非公式にYOUTUBEにアップされていたため、ヒップホップ以外の関連動画からユーザーを取り込むことに成功した。
2.SNSやキュレーションメディアの発達・普及により、YOUTUBEなどの動画サイト外からユーザーを取り込むことに成功した。
 
 
要は「全くヒップホップに興味の無かった人」に対し、この時代になって初めてリーチをすることが出来るようになったわけです。MCバトルの内容が劇的に変わったとかそういうわけではなく、情報環境の変化によって、「アーリーマジョリティ層」が大量にラップ、MCバトルに流れてくることとなりました。
 
 
“ビジネスマンラップ”をどう捉えるか。
 

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僕は、この2016年に登場した "ビジネスマンラップトーナメント”や、”社会人ラップ選手権”は、これまでイノベーターやアーリーアダプター層だけのものであったMCバトルを、マジョリティ層に対して強力に推進していく立場のイベントだと捉えています。
 
何故かというと、「そこにラップやヒップホップの文脈がいらない」から。
ラップやヒップホップに馴染みの無い人達が、MCバトルを理解し、自らもプレイヤーとなれる環境がそこにはあるわけです。
 
そして僕が強く言いたいことは、これがヒップホップやラップがマジョリティに受け入れられる、つまり「文化となる」という現象だということです。
 
 
よくラッパーやヒップホップを好きな人達は、「このラップブームを終わらせちゃいけない。ラップ・ヒップホップを文化にするんだ」と言います。
 
ただそれは、「自分たちの好きなヒップホップをみんなが好きになる」ということではなく、「様々な感度・リテラシーの人が、それぞれにラップ・ヒップホップを楽しむことができる環境が出来る」ということを意味しています。
 
これまで内輪でワイワイやってたものとは、全く別次元のものになるということです。
 
 
僕は、「ラップブームが終わる」ということは、それはつまりイコールで「ラップやヒップホップはマジョリティを受け入れることが出来なかった」ということを示すことになると考えています。
マジョリティが受け入れることが出来ないものはサクッと当たり前に終わるんです。ガングロとかコギャルと一緒です。
 
 
僕たちは変化が求められています。それが「文化にする」ということの指し示す意味です。
 
 
あなたは変化する勇気がありますか?
それともその変化を他人に任せますか?
 
 
 

凡人が勝つためのパフォーマンス思考法

というテーマで論考を書いてみました。

 

「何故あのチームが勝てるのか」について、パフォーマンス作りという観点から自身の経験・各所へのヒアリングを重ねてまとめております。

 

ダッチ人生8年間の集大成です。

これまでに書いたものともまた別の角度から、決定版として作ったので読んでみてください。

 

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